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© 住宅での受動喫煙被害を考える会・兵庫

No.004 管理規約を改訂するも、転居を余儀なくされる

受動喫煙の状況

 分譲マンションを購入し、住み始めて12年目のある夜、リビングでタバコの臭いを感じました。あっという間に部屋中がタバコ臭くなり、あわててベランダに出て辺りを見回してみると、隣室のベランダで喫煙している人影が見えました。この日、隣に引っ越してきた一家の夫でした。その場で被害を伝えたところ、恐縮したように火を消してくれたので安心しました。困っていることは伝えたので、当然ベランダでの喫煙はやめてくれるものと思っていました。が、現実は全く違いました。

タバコの臭いで起こされるようになり、平日は朝1、2回、夜は20時頃から深夜0時頃までに3、4回、休日は朝から晩まで、隣人が在宅している間中、受動喫煙に遭う日々が始まりました。

管理会社、自治体、弁護士にも相談

隣家には複数回、困っていると伝えましたが、被害に変化はありませんでした。管理会社に相談したところ、喫煙マナーを守るよう呼びかけるチラシが掲示され、全戸配布もされました。それでも全く状況は変わりませんでした。市や県にも相談しましたが、「お隣に配慮してもらってください」と言われただけでした。

弁護士に相談すると記録をとるよう助言されました。副流煙の測定器を教えていただき、タバコ臭を感じた日時と共に、有害物質の値を記録するようになりました。

体調が悪化して受動喫煙症と診断されました。その旨を管理会社から隣家へ伝えてもらったところ、「ではもうベランダでは吸わない」と言ったそうです。しかし部屋に入ってくるタバコ臭が減ることはありませんでした。管理会社と管理組合の理事に立ち合いをお願いし、当事者間の話し合いの席を設けてもらいました。

合意の形成

話し合いの席で、隣人はベランダでの喫煙をやめたものの、窓を開け、室内からベランダに向けて喫煙していることがわかりました。

隣人の主張は「配慮して吸っている」「自室での喫煙に文句を言われる筋合いはない」「そちらには受忍義務がある」というもので、タバコの臭いが来ないようにしてほしいという我が家とは、話が全くかみ合いませんでした。「そんなにタバコが嫌なら、禁煙マンションに行け」とも言われました。隣家の妻はタバコを吸っていないとのことでしたが、「被害者面して腹が立つ」「大麻吸ってるんじゃない」と感情的でした。

見かねた理事から、やむを得ない状況下であるとして、喫煙する際には本来禁煙である玄関側の共用廊下を使用してはどうかと提案があり、合意しました。

合意の不履行

隣の夫は、共用廊下に机や椅子を出して、そこで喫煙するようになりました。風通しの良いマンションで、我が家は玄関に網戸をつけていましたが、使うことはできなくなりました。それでも隣が我が家に配慮して喫煙場所を変えてくれたことを考えて、我慢できるところは我慢しようと思っていました。この頃、隣の夫とは、廊下で会えば普通に会話ができる関係になっていました。隣の妻は敵意がおさまらないようで、こちらから話しかけても無視されることばかりでした。

そのような状況が1年ほど続いたころ、またリビングにタバコの臭いが漂ってくるようになりました。隣家が廊下に出していた机と椅子がなくなっていました。タバコの臭いを感じると、隣家の、我が家に一番近い部屋の電気がついていました。また室内で、窓を開けて喫煙し始めたようでした。約束を守らなくなった理由を聞こうとしましたが、隣家の妻から感情的な言動があり、難しいと感じました。我が家は再び受動喫煙被害に苦しめられるようになりました。

他市からのアドバイス

心身ともに疲弊する中で、ベランダ喫煙について「自分の家族だけ守ればいいの?」と書かれた他市の啓発チラシを目にしました。このチラシを自宅マンションに掲示してもよいか、作成した市に問い合わせたところ、これまでのどの行政機関よりも丁寧に被害の状況を聞いてくれました。そして「マンションの管理規約は総会で変えられるので、受動喫煙を禁止にできるかもしれませんよ」という助言をいただきました。

被害世帯で協力

その頃、我が家の隣からの受動喫煙で、同じように困っていた別世帯の幼児が、喘息を発症したことを知りました。
そこで、そのご家庭と協力し理事会に申し入れを行うことにしました。

管理規約細則の改訂

受動喫煙症の診断書と医師の意見書を添えて、マンション内の禁止事項を定めた管理規約細則を改訂するよう理事会に申し入れました。
一部の理事からは「自室での喫煙を制限することはできないのではないか」と言われましたが、「自室での喫煙を制限してほしいわけではないです。ただ周りに被害を与えることは禁止にしてください」と何度もお願いしました。

臨時総会が開かれ、賛成多数で細則が改訂されました。「近隣に受動喫煙被害を与えること」は住宅の禁止事項となりました。最初の被害から1年半以上がたっていました。

結末

管理規約細則の改訂後は、のべつまくなしに受けていた被害が低減しました。しかしタバコ臭がゼロになることはありませんでした。隣家は理事会に対し、「加熱式タバコに変えたので被害はないはず」「窓を閉めて喫煙している」と主張したそうですが、加熱式タバコの臭いが十分に不快でした。その臭いは、窓を閉めて喫煙しているとは信じ難いほど臭ってきました。そのような状況でも、隣の言い分を信じた一部の住民からは、私たちの方がクレーマーであるかのように扱われることもありました。

被害がなくならないため、改訂後の細則に従って理事が何度か隣家を訪れ、「たとえ窓を閉めていてもタバコの臭いは漏れる」という実験結果を渡してくれたり、「ほかの喫煙者のようにマンションの敷地外で喫煙してくれないか」と頼んでくれたりしましたが、実現しませんでした。「敷地外での喫煙」依頼には、タバコを吸っていない妻が、「喫煙のたびに家を出て行かれると、小さな子どもの世話を頼めず自分がイライラする」と猛反対したとのことでした。裁判も考えましたが、たとえ勝訴してもわずかな賠償金を得るだけで喫煙行動を制限できるわけではないと知りました。

私と家族は少しのタバコ臭にも敏感に反応するなど、化学物質過敏症を疑う症状にも見舞われるようになり、我が家は、終の棲家と購入した自宅マンションを手離しました。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
 e-ヘルスネット「たばこ対策の推進に役立つファクトシート」ー2021年版 
 5.集合住宅等の受動喫煙トラブル

今、振り返って…

改正健康増進法の「配慮」は、本来、被害者側が配慮されているかどうかを判断するもののはずですが、我が家のケースでは、喫煙者が喫煙する際の正当性を主張することに使われました。被害実態には全く変化がなかったにもかかわらず、隣人がベランダ喫煙をやめ、窓を開けて室内からベランダに向けて喫煙し始めたことを「十分な配慮」と言う住民もいました。行政の対応も及び腰でした。

我が家は3年ぶりにタバコ臭のない当たり前の生活を取り戻しましたが、なぜ被害者である我が家が、高い代償を払って転居しなければならなったのでしょうか。受動喫煙による被害を与えてはならないことは既に社会の常識ですが、非常識な喫煙者は一定数おり、あちこちに相談する中で出会った多くの被害者は、今も我慢と苦痛を強いられています。これは誰の身にも起こりうる問題です。個人が疲弊しながら問題解決に当たらなくても済むよう、行政が適切に介入できる、条例や法律の整備が必要だと痛感しています。

住宅での受動喫煙が深刻な社会問題であることの共通認識が醸成され、「自宅での喫煙であっても、周囲に受動喫煙被害を与えることは許されない」という当たり前のことが実現することを願っています。