被害の始まり
分譲マンションを購入して33年、子どもたちも家を離れ、夫婦2人で穏やかに生活してきましたが、2023年11月に隣に単身者が入居してから、日常的にタバコ臭を感じるようになりました。
平日は隣人が帰宅する18時頃から、休日は早朝から、いずれも深夜にかけてほぼ2時間おきにタバコの臭いがしてきました。夜中にトイレに起きた時などにも、毎日のようにタバコ臭を感じました。
隣家の換気扇の音がするとタバコの臭いが漂ってきたので、換気扇を回しながら喫煙しているようでした。
室内に流入するタバコ臭
窓を閉めていてもサッシの隙間や換気口からタバコの臭いが入ってきました。換気口は「閉」にしました。
子どもが家族と泊まりがけで遊びに来た時に「タバコ臭を感じる」と言われ、当時1歳だった孫の健康に悪影響があるのではないかと心配でたまりませんでした。
その後、換気口はガムテープで塞ぎましたが効果はありませんでした。
また、台所の換気扇のスイッチを入れるとタバコの強い臭いが入ってくることが多々あるので、調理中でも換気扇を回せなくなりました。
網戸やカーテンからもタバコ臭がするようになり、網戸の拭き掃除やカーテンの洗濯を繰り返すようになりました。
タバコ臭が漂う日々の生活で次第にストレスがたまり、不眠やアレルギー症状が出るようになりました。いつ隣家の換気扇の音がするのかとビクビクするようになり、次第に恐怖感を覚えるようになって、当時かかっていた医師に相談したところ、睡眠薬や精神安定剤が処方されました。
あちこちへ相談
2025年6月、管理会社に相談すると、「自室内での喫煙は規制できない」「個人で対応するように」と言われましたが、隣人とは面識がないうえにどう伝えたらよいのかもわからず、トラブルが発生することもあるのではないかという不安も感じ、直接被害を伝えることはできませんでした。
次に、市の無料弁護士相談に行きました。しかし、そこでも「隣人に困っていることを伝えてみてはどうか」とアドバイスされただけでした。
私は当時、がん寛解に向けて治療をしている大事な時期でしたが、隣家からの受動喫煙で心身ともに疲弊し、本当につらい状況に陥ってしまいました。患者会でこの話をすると、皆さんが事情をよく理解してくれただけでなく、「隣人に直接言うのではなく、管理会社や管理組合を通すのがよいと思う」との助言をもらうことができました。
管理組合の理事長へ相談
患者会での助言もあり、マンションの管理組合の理事長に相談したところ、理事長は最初に「私なら我慢する」と言い、「隣が料理をする時に出る臭いがくるのと同じで、お互い様ではないか」とも言いました。理事長は「(対応できないか)管理会社に聞いてみる」と言ってくれましたが、やはり「自分の部屋の換気扇の下で吸っているのだから規制できないと言われた」とのことでした。
理事長からは「力になれなくてごめんなさい」と言ってもらいましたが、私は心身共に限界だったためあきらめられず、「お隣は自分の喫煙が周辺に被害を及ぼしていることをわかっていない可能性があるので、そのことをわかってもらうための掲示だけはさせてほしい」とお願いしたところ、理事長から了承され、文書は私が書くことになりました。
「ベランダや換気扇の下での喫煙は、周囲に影響を及ぼすことがあります」と書いてマンション名を入れた文書を作成しました。文書は理事長の許可と管理会社の承認を得たのち、2025年10月にマンションのエントランスの壁とエレベーター内に掲示され、全戸配布もされました。
最初に隣人からの受動喫煙に遭った時から、2年が経っていました。
ようやくこれで被害がなくなると期待しましたが、何も変わりませんでした。
健康増進課が管理会社へポスターを郵送
精神的に疲れ、市の心の相談窓口に電話したところ、健康増進課につないでくれました。
健康増進課でこれまでの状況を伝えると、市の弁護士相談に行った日付の証明書をもらってくることや、喫煙時間のメモを取るよう助言されました。また、市が作成した居住空間での喫煙についての配慮義務ポスターを健康増進課が管理会社に郵送してくれ、管理会社は私が書いた文書の隣にそのポスターを掲示してくれました。
しかし、隣人の喫煙行動は変わりませんでした。
支援団体やオンライン相談会につながる
再び市の健康増進課に相談したところ、禁煙や受動喫煙防止を推進する団体があることを教えてもらいました。連絡してみると、継続して相談できる支援団体や弁護士による無料オンライン相談会の紹介してくれました。相談会に参加して初めて、同じように被害に遭ってきた多くの方と出会いました。ようやく自分の思いを話せる場所ができたことに、ホッとしました。
被害を受けている皆さんの事例や助言を聞くなかで、とくに有益だったのは、管理組合や管理会社に対しては「配慮のお願い」ではなく「被害解消につながる対応」を求めるようにするとよい、ということした。
それからは、オンライン相談会に参加したり定期的に助言を得たりしながら、管理会社や理事長とのやりとりを続けました。
管理会社と交渉
管理会社には、市から禁煙や受動喫煙防止を推進する団体を紹介されたこと、さらに専門の支援団体から「室内での喫煙は個人の自由であるものの、窓を開けての喫煙や換気扇下での喫煙は、臭いが排出されて近隣に受動喫煙を生じさせるため、対策が必要」と、明確な指摘を受けたことや、こちらが望んでいることは掲示や規約化ではなく悪臭被害の解決であることを、はっきり伝えました。
また、受動喫煙の影響について公的機関や研究者が作成した資料などを示し、深刻な健康被害が生じていることも繰り返し伝えました。
再度の掲示と被害の軽減
2025年12月末、管理会社が住居空間で喫煙する際に近隣への配慮を求める文書を作成し、エントランスの壁に掲示してくれました。
掲示には、室内での喫煙により換気扇の排気口や窓などから煙や臭いが屋外へ流出し、近隣住戸へ入り込むとの苦情が寄せられていること、「窓を自由に開けられない」「窓を閉めていても換気口等の隙間から臭いが入り込む」「洗濯物・網戸・窓ガラスのほか、室内にも臭いが染み込み、生活環境に支障をきたしている」「体調不良、不眠、アレルギー症状など健康への影響が生じている」と、被害が具体的に記載されていました。
また、健康増進法の内容もわかりやすく示されていました。
さらに、居室内での喫煙について、「窓を開けたままの喫煙」「隣接する住戸の窓や給気口付近での喫煙」「換気扇を作動させ、その下での喫煙(ダクトから煙が排出される)」と、被害につながる具体的な例を挙げ、これらが近隣住戸への受動喫煙の原因となり得るため配慮するよう求めるお願いや、加熱式タバコも同様であること、喫煙後も30分程度は窓を開けないことが望ましい旨も記載されていました。
すると、掲示の翌日から、隣家が換気扇を回して喫煙することがなくなりました。窓を開けて喫煙している気配を感じることはありますが、以前に比べると被害は軽減しました。
掲示への意見と管理会社の毅然とした対応
2026年3月、マンションの定期総会が開かれ、掲示について「マンションの資産価値が下がるのではないか。そもそも個人宅での喫煙は自由なのでは?」と、隣人ではない居住者から意見がありました。
せっかく被害が減ってきたのに、また以前のようになってしまうのかと不安になりましたが、管理会社の担当者が毅然と「まだ解決しておりません」と対応し、理事長も「私が掲示の許可をしました」とはっきり言ってくれました。別の居住者からも「喫煙による煙や臭いは広範囲に広がる」「以前住んでいた賃貸物件で、部屋にタバコの臭いが染みついていたので部屋を変わったことがある」などの意見が出されました。居住者のなかに理解を示してくれる方がいたことは、本当にありがたいことでした。
文書は承認日が更新されつつ、現在も掲示されています。
現状
しばらく部屋でタバコ臭を感じることはありませんでしたが、2026年9月中旬、夜間に換気口からタバコ臭を感じることがありました。また、早朝に窓を開けた際にタバコの臭いがしてきました。涼しくなってきたため、窓を開けて喫煙するようになったのかもしれません。ただ、のべつまくなしに臭ってきた頃を思うと、ずいぶん楽になりました。
今、振り返って…
当初は、どこに相談してもとりあってもらえないばかりか被害もなくならず、心身共に疲弊しました。
その後、多くの方に助言をいただいたことで、管理会社や管理組合に対し「どのような行為を改善してほしいのか」を整理して具体的に伝えることができました。相談の際には、感情的にならず、丁寧にお願いすることを心がけ、その都度状況を報告し、対応へのお礼も伝えてきました。被害がなくなったわけではありませんので、今後も様子を見ながら対応していきたいと考えています。なによりも、マンションの定期総会で複数の方が被害への対応に賛同してくれたことに感謝しています。
私どもの事例が、住宅での受動喫煙問題で悩んでいる多くの方々の参考になれば幸いです。
